2026.8.19

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投資家の議決権行使基準、自社はどれに抵触する?閾値の先にある二段目の判定

招集通知の確定を前に、自社の役員選任議案が機関投資家の基準に抵触していないか、十分に確認できずにいるのではないでしょうか。本記事では、主要20社の行使基準を1,027行に分解して行った実測に基づき、点検すべき閾値と、抵触した後に働く例外条項の実際を解説します。

結論

確認すべき項目は三つに絞れます。政策保有株式、社外取締役の比率、そして社外役員の在任年数です。ただし、閾値に抵触しても、賛否はまだ決まりません。本記事では20社の基準の原本を開き、閾値の確認から、その先にあるもう一段の判定まで順に解説します。

議決権行使基準で抵触しうる項目は主に三つ

答えの材料は、助言会社の推奨ではなく、運用機関が公表している行使基準の原本です。主要20社の基準を1,027行に分解し、原本20本と突き合わせて数値の不一致がないことを確かめたうえで数えると、役員選任に適用される主な閾値は三つに絞られました。

政策保有株式が純資産の20%、社外取締役の比率が3分の1、社外役員の在任年数が12年です。このうち社外比率と在任年数の閾値は、各社でほぼ揃っていました。

揃っていなかったのが、政策保有株式の基準です。

政策保有の基準は閾値も分母も運用機関ごとに違う

政策保有株式の基準だけは、閾値も分母も反対の対象も、運用機関ごとに違います。まず異なるのが、閾値の設定です。20社のうち数値の閾値を定めるのは15社で、閾値を置かない運用機関も4社ありました。

水準も一枚岩ではありません。多数派は純資産の20%ですが、15%程度と低めに置く運用機関や、金融と非金融で水準を分ける運用機関もあります。

政策保有株式の基準の一覧
政策保有株式の基準の一覧(クリックで原寸表示)

反対の対象も条文で違います。代表取締役に反対する運用機関が多いものの、在任3年以上の現代表取締役に限る運用機関、3期連続で取締役だった代表取締役に限る運用機関、対象者を特定しない運用機関に分かれます。

さらに、適用対象そのものがTOPIX100/500や市場区分、親会社の有無で切り替わります。どの基準が自社に当たるかの判定は、閾値の数字を見るだけでは終わりません。

賛成率の差が測れたのは政策保有の抵触だけ

基準に抵触したら、賛成率は実際どのくらい下がるのでしょうか。大型プライム中心の103社で、公表基準への抵触と経営トップ選任議案の賛成率を突き合わせた実測があります。

90%割れの比率は、複合的に抵触していた企業群で41.9%、抵触のない企業群で17.9%でした。

ただし、この差が生じていた要因は政策保有株式への抵触だけで、純資産の20%以上だった10社では9社が90%割れでした

一方、政策保有株式を除いた抵触群の90%割れは19.0%で、抵触のない群と同じ水準でした。とはいえ「政策保有以外は影響しない」とは言えません。この標本には、政策保有株式以外の条文に実際に抵触した会社がほとんど含まれていないためです。10社のうち7社が金融という偏りもあり、業種の影響も切り分けられていません。

反対票の対象は基準ごとに分かれている

もう一つ、基準に抵触してから反対票が投じられるまでには、「誰に反対するか」という対象の指定があります。同じ抵触でも、誰が反対票の対象になるかは条文によって異なります

独立性基準に基づく反対票は、当該の社外候補本人に投じられます。この基準に基づく反対票を含む議案の93.0%では、同じ議案の中に賛成の候補が混在していました。反対票は議案の候補者全員ではなく、該当する候補だけに投じられています。

一方、社外取締役比率の基準は、再任の取締役の選任に反対すると定められており、代表取締役を含む幅広い候補者が反対の対象になります。1社あたりの反対件数も、対象の広い親会社等の基準は5.9件、独立性基準は1.4件と、条文が定める対象の広さに対応していました。

したがって、経営トップの賛成率だけを見ても、在任12年のような基準への抵触は把握できません。反対票が経営トップではなく、社外候補本人に投じられるからです。この観測は1機関・1四半期の範囲です。

閾値に当たっても賛否はまだ決まらない

閾値の点検が済んでも、判定はもう一段残っています。基準の原本には「例外」の定めがあり、実際に使われています。三井住友トラストアセットマネジメントの2026年の行使記録には、基準に抵触したものの対話の内容などを考慮して賛成した、という記載が102行ありました。抵触しても、賛成へ転じた記録が現に残っています

ただし、例外の適用のされ方は、基準ごとにまるで違いました。適用されやすいのは、「対話や説明を考慮する」と条文に書かれた基準で、業績基準では抵触した会社の26.0%が賛成に転じていました。

一方、15基準のうち9基準では、例外は1件も適用されていませんでした。適用されない基準の条文を読むと、対話で例外を認める定めがそもそも書かれていません。なお、この割合の分母は「抵触した社数」で、説明を試みて認められなかった割合ではありません。

では「例外」の欄は、救済の一覧なのでしょうか。同じ原本の例外の列には、逆方向の条項も並んでいます。具体的には、親会社を持つ会社について一般株主の利益保護に懸念があれば反対するという、反対対象を広げる定めや、プライム市場以外なら複数の独立社外取締役で足りるという、市場区分による適用範囲の限定があります。

つまり「例外」の欄は、原則を緩めるためだけの場所ではありません。閾値だけでは賛否が決まらないときの、二段目の判定手順を集めた場所です。確認できた原本の構造は1社分、行使記録は1機関分の範囲ですが、閾値の点検はあくまで一段目です。賛否は、その先の条文で決まります。

編集後記

招集通知の前にできる点検は、思ったより短く済みます。政策保有株式の純資産比、社外取締役の比率、社外役員の在任年数。この三つを自社の数値で確認すれば、点検の大半は完了します。

ただ、原本20本を読み終えて、考えが変わったところがあります。点検で重要なのは閾値そのものではなく、その先の例外の条文でした。賛否を分けるのは、もう一段の判定です。最後に確認すべきは数字の一覧ではなく、条文のページだと考えています。

出典とデータについて

本記事の閾値・条文の記述は、主要運用機関20社の公表基準をひふみ株式会社が1,027行に構造化し、原本と照合したものです。例外適用の実測は三井住友トラストアセットマネジメントの議決権行使結果(2026年4〜6月総会・取締役の選解任・会社提案・1機関1四半期)の集計、賛成率との突き合わせは、ひふみ株式会社による大型プライム中心103社の集計で、その限界は本文に記載のとおりです。

本記事の制作には生成AIを活用し、データの集計と出典はひふみ株式会社 デジタル編集部が確認しています。

制作: ひふみ株式会社 デジタル編集部

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