2026.8.19
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機関投資家の反対票は何で決まる? 基準に当たった後に開く「例外条項」
株主総会の結果に並ぶ機関投資家の反対票について、なぜ自社の議案に投じられたのか、来年はどうなるのかを、明確に説明できないままになっていませんか。本記事では、主要運用機関20社の行使基準1,027行と行使記録の実測に基づき、反対票が決まる仕組みの全体像を解説します。
結論
機関投資家の反対票は、感情ではなく、各社が公表している議決権行使基準の条文を総会の議案に当てはめた結果として決まります。行使の後には、どの基準で反対したかが個別開示に記録として残ります。行使の前には、条文が、抵触の条件・反対票の対象者・適用が始まる時期を定めています。本記事では、企業からどこまで確認できるのか、そして対話はどの場面で効くのかを、手元で確かめられる記録から順に解説します。
反対票は条文を議案に当てはめた結果として出る
機関投資家の議決権行使は、各社が公表する行使基準に沿って行われます。基準の条文は、反対する項目と閾値だけでなく、適用の対象や、誰を反対票の対象とするかまで定めています。反対票は、この条文をその総会の議案に当てはめた結果です。
ただし、当てはめの全部が企業から見えるわけではありません。行使の後の理由は運用機関の個別開示に記録として残る一方、行使の前の要素は、どの条文に抵触するか・いつから適用されるか・どの運用機関がどれだけ保有しているかのそれぞれで、確認できる度合いが違います。
賛成に回した記録も個別開示の理由欄に残る
まず、行使が終わった後に残る記録から確認します。前年以前の総会分なら、主要20社のうち19社で、自社に反対した運用機関を銘柄・議案の単位まで特定できました。大半は、独立性・政策保有・ROEといった基準の種類まで読み取れます。
読める深さは三つの水準に分かれる
いちばん浅い水準では、どの種類の基準で反対されたかが分かります。19社の大半は、ここまで確認できます。次の水準では、基準のどの条文に当たるかまで特定できます。この水準まで開示しているのは2社です。一方は個票に条項の記号を振って基準との対応表を同梱し、もう一方は条項の番号との対応表を公表しています。
最も深い水準、つまり抵触した数値(閾値と自社の値)まで書く運用機関は、ゼロでした。自社の数値が閾値にどれだけ近いかは、読み手自身が計算する必要があります。
総会の直後は、前年の記録が主な材料になる
もう一つの壁は時期です。6月総会の結果を夏のうちに公開する運用機関は、確認した年で20社中5社にとどまりました。残る運用機関の開示が出そろうまでは、前年以前の記録が主な判断材料になります。
賛成の行にも理由が残る
理由欄は賛否に共通の1列で、賛成の行にも理由が書かれます。三井住友DSアセットマネジメントの前年の1四半期には、基準に抵触したものの精査により許容した、と付された賛成の記録が298セル・105社分ありました。
この運用機関の基準の柱書きは、抵触したら候補者ごとに精査したうえで原則反対しつつ、対話などでの確認を踏まえた総合判断で賛成することがある、という構造です。したがって許容の単位は会社ではなく候補者で、同じ会社の同じ基準で3人に反対し3人を許容した記録もあります。行使の体制も公表されており、担当者の判断を責任者が承認し、議案によっては会議体で審議する設計でした。
反対票の対象は基準の条文が指定している
抵触しやすい項目は、多くの運用機関で三つに集まります。政策保有株式、社外取締役の比率、そして社外役員の在任年数です。ただし閾値は運用機関ごとに分かれており、政策保有株式では15%から40%まで分散していました。
条文は、誰を反対票の対象とするかまで書き分けています。独立性の基準による反対票は当該の社外候補本人に投じられ(1社あたり1.4件)、親会社に関する基準による反対票は、再任の取締役全体に広く投じられていました(1社あたり5.9件)。同じ抵触でも、反対票の対象が条文で変わります。
賛成率への影響も測りました。大型プライム中心の103社では、賛成率に差が出ていたのは政策保有株式の基準に抵触した企業群だけで、それ以外の条文に実際に抵触した企業は、この標本にはほとんど含まれていません。金融セクターの影響とも切り分けられていません。
分かるのは運用機関の数までで、議決権の比率は分からない
では、こうした基準で議決権を行使する運用機関は、自社の株主に何社いるのでしょうか。それを把握できる制度は、5%超の大量保有を除いて存在しません。無償で分かるのは、行使結果の開示から確認できる、総会時点で株主だった運用機関の名前までです。プライム市場の平均は20.6機関でした。
株主だった運用機関の数と賛成率の関係も、企業別に測りました。関係は比例ではなく、段差がありました。株主だった運用機関が5機関以下の層では、賛成率が90%を割る企業はまれでした。一方、6機関を超えると、その割合は2割台に達し、それ以上は運用機関数が増えてもほぼ変わりませんでした。
ただし、数えているのは運用機関の数であって、議決権の比率ではありません。各運用機関がどれだけの議決権を持っていたかは、この実測では分かりません。市場区分や企業属性との交絡も分けきれていません。
基準に抵触しても、反対票にならない場合がある
基準の条文に抵触しても、すべてが反対票につながるわけではありません。基準の原本には例外の定めがあり、「対話や説明を考慮する」と条文に書かれた基準では、実際に賛成へ転じた記録がありました。例外の適用率が高かったのは、この型の例外を持つ4基準です。
一方で、例外が1件も適用されなかった基準も9つありました。例外の適用のされ方は条文の書き方と対応しているように見えますが、基準ごとに分母の作り方が違うため、割合の横並び比較はできません。観測は1機関・1四半期の範囲です。
対話の扱いを公表資料で確かめると、主要8社のうち7社が、対話を踏まえて基準と異なる判断がありうると明記していました。ただし、面談を重ねるだけで例外が適用されるわけではありません。
発動には要件があります。たとえば政策保有株式の例外なら、純資産比20%未満へ概ね3年以内に下げる削減計画の実現性など、複数の条件をすべて満たすことが求められ、その判断は委員会や会議体の審議を経ます。対話の回数や面談の手応えは、要件のどこにも出てきませんでした。
どの改定がいつから自社に適用されるかは、適用対象と適用時期を確認すれば、数本まで絞り込めます。
対話の余地は、運用機関の基準文書の一項目として管理されている
ところが、基準の過去版を並べると、別の動きが見えてきました。在任12年の独立性基準には、導入の時点では、対話で合理的な説明があれば独立性を認めるという緩和の定めが付いていました。この定めが確認できるのは2022年4月の改定版が最後で、以後の版には存在しません。
逆方向の動きもあります。政策保有株式の基準は、対話の項目から原則反対の定量基準へ移りましたが、削減計画を確認する対話型の例外は現行版にも残り、実際に適用もされていました。
対話は反対の理由にも変わる
対話には、もう一つの結果もあります。対話で改善が見られない場合に反対へ進む、いわゆるエスカレーションの条項を、20社のうち6社が明文化していました。
強さは揃っていません。会長・社長などの再任に原則として反対すると書き切る運用機関がある一方、反対することも検討するという水準の運用機関もあり、条文の強さを確認できていない運用機関も残ります。行使の決定権を対話の担当部署から切り離す設計が多数派ですが、対話と行使を同じ部署で担う運用機関も2社あり、すべての運用機関に当てはまるわけではありません。
並べて見えてくるのは、対話の位置づけです。企業が対話を通じて機関投資家との間に積み上げてきたと考える共通理解も、機関投資家の内部では基準文書の例外条項の一項目として管理されています。その項目が改定で書き換えられれば、それまでの共通理解は次の総会の判断に反映されません。確認できたのは1機関の1項目の履歴ですが、対話の成果を確かめる場所は面談の記憶ではなく条文だ、という読み方は変わらないはずです。
編集後記
反対票の理由には、面談で聞く前に公表物で確かめられる範囲がありました。前年分までなら、どの運用機関がどの基準で反対したかまで、個別開示から読み取れます。
20社の基準と行使記録を読み終えて見えてきたのは、対話の位置づけです。機関投資家との対話で得られた理解はそのまま蓄積されるのではなく、基準文書が改定されるたびに改めて確認する必要がありました。確かめるべきは面談の手応えではなく、条文のいまの文言です。そこまで含めて、反対票は説明のつく数字だと考えています。
出典とデータについて
- 三井住友トラストアセットマネジメント 議決権行使ガイドライン
- 三井住友トラストアセットマネジメント 議決権行使結果
- 三井住友DSアセットマネジメント 議決権行使基準(2026年1月5日改定版)
- 一橋大学・円谷研究室 機関投資家の議決権行使結果(特設ページ)
- そのほか本文の条文・体制の記述は、各運用機関が公表する議決権行使基準・スチュワードシップ関連資料の現行版に基づきます(転載制限に配慮し、条文は要約して記載)
本記事の実測は、ひふみ株式会社が主要運用機関20社の公表基準を1,027行に構造化して行った照合、三井住友トラストアセットマネジメントと三井住友DSアセットマネジメントの議決権行使結果の集計(いずれも1機関・1四半期の限界)、一橋大学・円谷研究室の公開データを独立に再計算した、総会時点で株主だった運用機関数と賛成率の企業別分析(3,361社・相関であり交絡は未分離)、大型プライム中心103社の抵触照合に基づきます。基準の過去版の存廃は、同一運用機関のアーカイブ7点の照合によります。
本記事の制作には生成AIを活用し、データの集計と出典はひふみ株式会社 デジタル編集部が確認しています。
制作: ひふみ株式会社 デジタル編集部