2025.8.16

銀行

企業価値担保権で変わる中小企業金融の未来

〜国会議論から読み解く新たな資金調達の可能性〜

はじめに:120年ぶりの金融革命が始まる

2024年6月、日本の金融史に新たな1ページが刻まれました。「事業性融資の推進等に関する法律」が成立し、約120年ぶりに融資に関わる法律上の新たな担保権「企業価値担保権」が誕生したのです。

不動産担保や個人保証に頼らない、企業の事業価値そのものを評価する新しい融資の形。これは、技術力やノウハウはあるものの、担保となる不動産を持たない中小企業やスタートアップにとって、まさに待望の制度といえるでしょう。

本記事では、2022年から2025年にかけて行われた国会での集中的な議論を詳細に分析し、この制度がもたらす可能性と課題を探ります。

制度創設への道のり

「事業成長担保権」から「企業価値担保権」へ

金融審議会での検討段階では「事業成長担保権」という名称で議論が進められていましたが、法制化の過程で「企業価値担保権」へと変更されました。

2024年5月30日の参議院財政金融委員会で、立憲民主・社民の柴愼一議員がこの名称変更の経緯について質問[1]。同年5月10日の衆議院財務金融委員会では、日本維新の会の掘井健智議員が「事業成長担保権はややセンセーショナルな名称であるものの、担当者の思いが込められていた」と指摘し、企業価値担保権という「非常に中立的な控えめな名称」への変更理由を質しました[2]

法制化への加速

2023年2月の金融審議会報告書を受けて法制化作業が開始。同年11月14日の参議院財政金融委員会で、金融庁の井藤英樹企画市場局長は「経済財政運営と改革の基本方針2023において早期の法案提出を目指すと閣議決定されていることを踏まえ、スピード感を持って取り組む」と答弁しました[3]

2024年の集中審議と法案成立

衆参両院での活発な議論

2024年5月から6月にかけて、衆参両院の財務金融委員会で集中的な審議が行われました。

5月10日の衆議院財務金融委員会では、事業性融資推進法案について活発な質疑が交わされ[4]、6月6日の参議院財政金融委員会では、立憲民主・社民の熊谷裕人議員が「個人保証によらない融資という制度ができることは、零細企業の経営者にとって大変有り難いこと」と評価しました[5]

金融検査の新たなアプローチ

国民民主党・新緑風会の大塚耕平議員は、金融検査における企業価値担保権の査定方法について詳細な質問を展開[6]。これに対し鈴木俊一財務大臣は「2019年に検査マニュアルを廃止し、金融機関の経営陣の判断を尊重して自主的な取組を妨げないことを原則とした」と、金融行政の大転換を明らかにしました[7]

法案可決と附帯決議

2024年6月7日の参議院本会議で、自由民主党の足立敏之議員が財政金融委員会を代表して審査報告。「企業価値担保権を創設する意義、企業価値担保権の設定前に労働組合等へ通知する必要性、金融機関の目利き力向上に向けた取組等について質疑が行われた」と報告し、法案は多数をもって可決され、附帯決議も付されました[8]

金融機関と中小企業への影響

金融機関に求められる「目利き力」

2025年5月9日の衆議院財務金融委員会で、公明党の山口良治議員は「企業の財務状況や決算情報に加えて、技術力や知的財産、顧客販路などを総合的に判断する」新たな運用指針について質問[9]

金融庁の伊藤豊監督局長は「地域金融機関の人材育成等を後押しする観点から、業種別支援の着眼点を公表し、研修、勉強会を実施している」と答弁し、金融機関の変革を支援する姿勢を示しました[10]

老舗の「のれん」もスタートアップの「アニマルスピリッツ」も評価

2025年4月14日の参議院決算委員会で、自由民主党の加田裕之議員は印象的な表現を使いました。「老舗企業に対してはそののれんというものに対する部分の評価というのもありますし、新規の企業、スタートアップというところになりますと、新規開拓力とかビジョンとか、言わばアニマルスピリッツというところも企業価値担保という形になるかもしれません」[11]

加藤勝信財務大臣は「不動産等の有形資産が乏しい企業にも新しい資金調達の手段として活用いただける制度」であり、「本年3月からプロモーション動画やリーフレットを通じた周知、広報を行っている」と説明しました[12]

認知度向上への挑戦

2025年3月24日の参議院財政金融委員会で、自由民主党の白坂亜紀議員は「企業価値担保権の企業における認知度は三割弱」という民間調査結果を示しました[13]

金融庁の伊藤監督局長は「プロモーション動画の再生回数が36万回」に達していることを報告し、商工会議所とも連携してリーフレットを配布する計画を説明しています[14]

他の担保制度との関係性

日本政策金融公庫の融資拡充との相乗効果

2024年6月6日の参議院財政金融委員会で、熊谷裕人議員は日本政策金融公庫が2024年4月1日から無担保無保証人融資の限度額を3000万円から7200万円まで引き上げたことに言及し、企業価値担保権との競合について質問しました[15]

金融庁の井藤企画市場局長は「企業価値担保権はあくまでも事業者の資金調達における選択肢の一つであり、他の手段による融資との競争が期待される」と答弁し、多様な資金調達手段の共存を示唆しました[16]

無形資産の評価という革新

井藤局長は「無形資産の内容は様々で、一般には知的財産権、ノウハウや顧客基盤等が含まれる」と説明。「のれんというのは、個別の勘定科目に位置付けにくい価値の総体」も含まれると、従来の担保概念を大きく超える制度であることを明らかにしました[17]

労働者保護への配慮

労働債権の優先と雇用維持

2024年5月17日の衆議院財務金融委員会で、日本共産党の田村貴昭議員は、金融機関による経営合理化指導が労働者の人員削減や労働条件の不利益変更につながる懸念を表明[18]

2025年5月29日の参議院法務委員会では、金融庁の若原幸雄参事官が「裁判所に選任された管財人が担保権者のみならず労働者も含めた利害関係人全体に対して善管注意義務を負う」と、労働者保護の仕組みを説明しました[19]

ガイドラインによる運用の明確化

2024年5月10日の衆議院財務金融委員会で、鈴木俊一財務大臣は「法案成立後、金融庁において、厚生労働省等の関係省庁とも連携して、担保設定時における労働者とのコミュニケーションの在り方など、制度趣旨を踏まえた運用に関する考え方をガイドライン等の形で公表することを検討」していると答弁しました[20]

今後の展望

地域金融機関の新たな役割

2025年5月16日の衆議院財務金融委員会で、加藤勝信財務大臣は「地域経済を支える金融機能を維持するために合併、経営統合等を行う地域金融機関が必要経費の一部の交付を受けられる資金交付金制度の創設」と「企業価値担保権の創設などの環境整備」を進めていることを説明しました[21]

想定される活用企業

金融庁の井藤企画市場局長は「金融機関等との様々なやり取りの中では、例えば売上高が数億円といった企業などへの融資案件における活用が想定しやすいという意見があった」と答弁し、今後の裾野拡大に向けて金融機関の取組を後押ししていく方針を示しています[22]

編集後記:見えない価値を見る

「なんで空は青いの?」先日、甥っ子に聞かれて答えに詰まりました。光の散乱を小学生に説明するのは難しい。見えているものの本質を言葉にすることの難しさを痛感しました。

企業価値も同じかもしれません。複式簿記は「今ある資産」は正確に記録できても、「これから生まれる価値」は見えない。土地や建物は数字にできても、技術力やブランド、顧客との信頼関係といった無形の価値は、既存の会計制度では捉えきれないのです。

企業価値担保権は、まさにこの「見えない価値」を担保にする制度。しかし、見えないものをどう評価するのか。国会でも議員たちが同じ疑問を投げかけていました。

預金会計が可視化する未来

ひふみ株式会社の預金会計システムは、この問いへの一つの答えです。預金の動きという「事実」から、AIが将来キャッシュフローを予測し、企業の真の価値を可視化する。複式簿記が過去を記録する技術なら、預金会計は未来を描く技術です。

私たちが目指すのは、中小企業の黒字倒産をゼロにすること。見えない価値を見える化し、企業価値担保権を真に機能させる。
120年ぶりの金融革命に向けて、ひふみ株式会社は挑戦を続けます。

編集員:畠田 拓


参考資料

  1. 第213回国会 参議院財政金融委員会 第15号(2024年5月30日)
  2. 第213回国会 衆議院財務金融委員会 第20号(2024年5月10日)
  3. 第212回国会 参議院財政金融委員会 第3号(2023年11月14日)
  4. 第213回国会 衆議院財務金融委員会 第20号(2024年5月10日)
  5. 第213回国会 参議院財政金融委員会 第17号(2024年6月6日)
  6. 第213回国会 参議院財政金融委員会 第17号(2024年6月6日)
  7. 第213回国会 参議院財政金融委員会 第17号(2024年6月6日)
  8. 第213回国会 参議院本会議 第25号(2024年6月7日)
  9. 第217回国会 衆議院財務金融委員会 第20号(2025年5月9日)
  10. 第217回国会 衆議院財務金融委員会 第20号(2025年5月9日)
  11. 第217回国会 参議院決算委員会 第3号(2025年4月14日)
  12. 第217回国会 参議院決算委員会 第3号(2025年4月14日)
  13. 第217回国会 参議院財政金融委員会 第3号(2025年3月24日)
  14. 第217回国会 参議院財政金融委員会 第3号(2025年3月24日)
  15. 第213回国会 参議院財政金融委員会 第17号(2024年6月6日)
  16. 第213回国会 参議院財政金融委員会 第17号(2024年6月6日)
  17. 第213回国会 参議院財政金融委員会 第17号(2024年6月6日)
  18. 第213回国会 衆議院財務金融委員会 第22号(2024年5月17日)
  19. 第217回国会 参議院法務委員会 第13号(2025年5月29日)
  20. 第213回国会 衆議院財務金融委員会 第20号(2024年5月10日)
  21. 第217回国会 衆議院財務金融委員会 第22号(2025年5月16日)
  22. 第213回国会 参議院財政金融委員会 第17号(2024年6月6日)

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